網膜静脈閉塞症(網膜中心静脈閉塞症・網膜静脈枝閉塞症)
網膜静脈閉塞症(CRVO, Central Retinal Vein Occlusion)は、眼の網膜という部位を流れる静脈と呼ばれる血管がつまる(閉塞する)病気です。網膜は眼をカメラに例えると、フィルムに相当するのが網膜です。網膜は眼球内面の約1/3を裏打ちする神経の膜です。網膜中央部分を黄斑といいます。
網膜を栄養する動脈は視神経の中央を(網膜中心動脈)、視神経乳頭に出て網膜に入ります。網膜内を枝分かれしながら(網膜分枝動脈)、次第に細い血管となり、最後は微細な血管網となり、酸素などの栄養を網膜に届けます。網膜で栄養が使われ、老廃物を取り込んだ血液が流れる血管が静脈です。枝分かれした細い静脈(網膜分枝静脈)は合流し太くなり、視神経乳頭から網膜外に出て行きます。静脈は視神経の中央で1本となり網膜中心静脈と呼ばれます。
網膜静脈分枝閉塞症は、静脈支流の1本がつまる病気で、閉塞静脈の上流に網膜出血が生じます。網膜中心静脈閉塞症は網膜静脈が網膜から視神経へ出て行き、1本の本流となった静脈(網膜中心静脈)がつまる病気で、網膜全域に出血がみられます。静脈が詰まると血液の行く手が塞がれ、静脈から血液があふれ出します。あふれた血液は網膜内に広がり、網膜浮腫(網膜の腫れ)を起こします。出血や浮腫のある網膜では働きが低下し、この部分の視野が欠けて見えたり、視力低下を自覚します。特に、網膜の中央部分である黄斑に出血や浮腫があると、視力は極端に低下します。
網膜静脈閉塞症は、50歳以上の方に起きやすい病気ですが、高血圧や動脈硬化と深い関連があります。糖尿病などの血液の粘性が増す病気がある場合にも、発症しやすくなります。
網膜静脈枝閉塞症(BRVO, Branch Retinal Vein Occlusion)
BRVOの症状は、閉塞した静脈が網膜のどの部位にあるかによって違います。従って、治療法も異なってきます。
網膜の中央、すなわち黄斑部を潅流する静脈が閉塞した症例では黄斑部に出血が及ぶため、視野欠損を自覚したり、黄斑部網膜が腫れ、黄斑部網膜機能が低下することにより、視力が低下します。従って、発症後早期から自覚症状が現れます。網膜出血は、経過にともない自然吸収され、発症後1年ほどでほぼ完全に消失します。視機能の経過を左右するのは黄斑浮腫です(図4)。黄斑浮腫の持続が視機能を悪化させます。一般的に黄斑浮腫はBRVOの発症から少し遅れて発生します。症例によっては、黄斑浮腫は、BRVOの発症後3か月ほどで自然に消退、治癒します。この場合は黄斑浮腫の持続期間が短く、浮腫による網膜機能の障害が軽微で、視機能障害も比較的軽度にとどまります。一方、黄斑浮腫が自然消退しない症例では、黄斑浮腫の残存により黄斑部網膜の機能は持続的に低下し、その結果、視機能の低下が続きます。
黄斑浮腫に対する治療法
現在、黄斑浮腫に対し抗VEGF剤という薬を眼球内に注射する治療法が、世界中で広く行われています。
抗VEGF薬とは
組織の血流が不足すると、そこに新しい血管を作るのを促す血管内皮増殖因子(VEGF)というサイトカイン(生理活性物質)が産生されます。この物質には血管壁から血液成分が漏れやすくする作用もあるため、黄斑浮腫の原因となります。VEGFの働きを抑制する抗VEGF薬を眼球に注射すると、浮腫が改善します。
浮腫に対して速効性があり、患者さんの負担が少ない治療法です。ただし薬の効果は永久ではありませんので、多くの症例で投与後2~3か月で黄斑浮腫が再発します。再発を抑えるため1年以上にわたり経過観察し追加投与が必要です。
静脈閉塞の結果、黄斑部の細い血管が瘤状となり(毛細血管瘤)、ここからの血液成分の漏れが黄斑浮腫を引き起こしている場合は、抗VEGF剤の投与回数を減らすことを目的に、レーザーで毛細血管瘤を凝固(網膜光凝固術)することもあります。
発症後しばらくしてからの治療
黄斑部から離れた網膜を潅流する静脈が閉塞した症例では黄斑部網膜の機能が正常なため、発症しても気がつかないことが多いようです。しかし、閉塞静脈が比較的太く、広い範囲の網膜で血流障害が生じると、発症後数ヶ月から数年後に、健常な網膜と静脈が閉塞した網膜との境界付近に網膜新生血管が発生することがあります。網膜新生血管は破綻しやすく、出血は硝子体に拡散します。硝子体出血が少量なら、点状や雲のような影が浮遊する飛蚊症を自覚しますし、出血が大量なら視力が低下します。すなわち、このタイプのBRVOでは、網膜新生血管の破綻による硝子体出血が発生して初めて症状を自覚し、病気が発見されることとなります。
硝子体出血が少量で、網膜の観察が容易なら、静脈が閉塞した網膜に光凝固を行います。光凝固は新たな網膜新生血管が発生するのを予防するとともに、既に存在する網膜新生血管の活動性を低下させることが目的です。光凝固により、硝子体出血の消退が促進されるわけではありません。網膜の観察が難しい程の大量の硝子体出血が発生した場合は、自然に吸収されるのを期待して、まずは数週間、経過を観察します。硝子体出血の消退が思わしくない場合は、硝子体手術を行います。手術では、硝子体出血を除去し、網膜新生血管を処理するとともに、術中に光凝固も行います。
網膜中心静脈閉塞症(CRVO, Retinal Central Vein Occlusion)
CRVOは虚血型と非虚血型に分類されます。一般的に非虚血型の方が、虚血型と比べ軽症例が多く、自然経過が良好です。CRVOでは網膜全域に網膜出血がみられ、黄斑部網膜の機能も低下するため、発症直後から自覚症状が現れます。前項のBRVO同様に網膜出血は、経過にともない自然に吸収されます。視機能の経過を左右するのはやはり、黄斑浮腫です。一般的に、非虚血型では黄斑浮腫が軽度で、自然消退する症例もあり、この場合は最高矯正視力が(0.5)以上を維持することが期待できます。一方、黄斑浮腫が遷延した症例では(0.1)未満となる症例も少なくありません。黄斑浮腫に対する治療は、BRVOと同様に抗VEGF剤の眼内注射です。注射の回数はBRVOよりも頻回となる傾向があります。
虚血型では、網膜新生血管のみならず虹彩や隅角に新生血管が生じる危険性があります。虹彩や隅角に新生血管は血管新生緑内障と呼ばれる難治性の緑内障を誘発します。網膜、虹彩、隅角の新生血管の発生を予防するために、網膜全域に光凝固を行います(汎網膜光凝固術)。網膜新生血管が破綻し、硝子体出血が大量でかつ消退しない場合は、硝子体出血の除去を目的に硝子体手術を行います。
HBCテレビ「今日ドキッ!」で近視の児童生徒の増加を取り上げていただきました
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