iPS細胞—網膜前膜(黄斑前膜)
- 1月16日、理化学研究所などのチームは、他人のiPS細胞から作製した網膜色素上皮細胞を移植した加齢黄斑変性患者が網膜前膜(黄斑前膜)を発症したため、網膜前膜の除去手術を行ったと発表しました。
- 網膜前膜の多くは、眼の加齢性変化に伴い発症します。50~60歳を過ぎた頃から起こりやすくなります。以前に眼の病気や手術を受けたことがなくても起こり得ます。
- 外傷や網膜裂孔、ぶどう膜炎などが原因となり、網膜前膜ができることもあります。
- 網膜前膜はゆっくりと厚みを増し、膜が収縮することにより、黄斑が引っ張られ、黄斑に皺ができたり、むくみが生じたりします。
- その結果、黄斑の働きが低下し、視力低下や物がゆがんで見えるようになります。
- 網膜前膜の形成には、眼の中に存在している硝子体細胞や網膜色素上皮細胞の関与が知られています。
- 今回のiPS細胞治療を受けた患者さんについては、実際に手術を担当された神戸市立医療センター中央市民病院の先生が、「iPS細胞から作った網膜色素上皮細胞を含む溶液を網膜の裏に注入する際、一部が網膜の表面に逆流したことが要因かもしれない」とコメントされています。
- 網膜色素上皮細胞は網膜前膜の発症に関与しますので、黄斑の表面に流出した網膜色素上皮細胞が網膜前膜を形成させた可能性が危惧されるのです。
- もう一つの可能性として、硝子体細胞の関与も考えられそうです。
- この手術では眼の中の硝子体を切除しますが、黄斑網膜の表面に硝子体細胞が残ることがあり、特に加齢黄斑変性の症例ではその可能性が高いのです。
- 黄斑の表面に残存した硝子体細胞が網膜前膜を形成した可能性も否定しきれません。
- どちらの細胞が網膜前膜の形成に関与したかは、網膜前膜除去手術で摘出された組織の遺伝子情報を解析することで、他人のiPS細胞から作られた網膜色素上皮細胞由来なのか、患者さん自身の硝子体細胞由来なのかが判明します。
- どちらの場合でも、iPS細胞が今回の合併症を引き起こした直接的な原因ではありません。
- 今後もiPS細胞を利用した治療研究は各分野で継続されると思います。
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